あらすじ


世界の中心に隠された大樹――世界樹と呼ばれるその木は、世界を根幹から支える存在と言われている。
その世界樹より《卵》として生まれる、世界の欠片たる精霊。
様々な力を持つ彼らと、そして世界樹と共に生きる人々の末裔――《時渡りの民》
その一人でありながら、今だ自分の精霊の《卵》を孵せないでいる、一人の少年。
世界から閉ざされた島に、外界から一人の男が辿り着いたことにより、『世界』は動き始める。

オズウェルは、幼馴染の仲間たちの中で唯一《卵》が孵らないことをひどく引け目に感じている。
《時渡りの民》は、生まれた時から共にある《卵》を孵すこと、それ自体を以って成人の儀とするということもあり、自分は大人になれないのではないかという、大きな不安を抱いていた。
《卵》が孵らないことで、いつかは同じ一族の者たちから仲間外れにされるのではと思い、逆に自ら心を閉ざしかけていたオズウェルに、手を差し伸べようとしている者がいた。
その男の名はヘルメス。二年前の嵐の晩に島にやって来た「よそ者」である。
歴史学者である彼にとって、《時渡りの民》と精霊の存在は、まさに命を懸けて追い求めていたものだった。
そんな彼にとって(オズウェルの《卵》から孵る精霊が見たいという正直な気持ちこそあるものの)年の離れたオズウェルは、可愛い弟のように思える存在でもあった。
ヘルメスはオズウェルと何とか仲良くなろうとあれこれ試みるのであるが、特に「よそ者」に対し頑ななオズウェルのこと、そう簡単に行くはずもない。
かと言って、オズウェルもオズウェルで、純粋な好意だけを持って接してくるヘルメスのことを嫌いになりきれるわけでもない。
先生(ヘルメス)とオズの追いかけっこ。これが日常になってしまうくらいには、ヘルメスが島に訪れてからの日々はとても穏やかなものだった。

ところが、ある日訪れる嵐が、そんな穏やかな『世界』を緩やかに変えて行くこととなる――……