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ある神話の断片



《混沌》の中に《光》が生まれた。それが、すべての始まり――

万物にして光の王フェーラ・シースは始めに《原始の海》を創り、そして次にフィリア・ラーラを創り、彼女を愛した。
ふたりは歌を歌い、種を蒔いて、《原始の海》に穏やかな癒しの光をもたらした。
しかし、《原始の海》に世界が生まれようとしていたその時――一匹の知恵ある小人がフィリア・ラーラを一振りの短剣で貫いた。
光を失ったフィリア・ラーラは金色の竜へと姿を変えて、《原始の海》で眠りについた。
フィリア・ラーラの体は《原始の海》に横たわり、《大地》となった。
フィリア・ラーラを失ったフェーラ・シースは深く悲しみ、涙を零した。
彼は涙と共に《創造》と《破壊》の力を失い、彼もまた、フィリア・ラーラと共に眠りについた。
フェーラ・シースの光は《天球》となって、今も《大地》を照らしている。

創造の力であるルヌラストは、破壊の力であるルイン・キルーサと共に、《大地》に命を灯していった。
《大地の守り手》として、七つの光を《大地》へと放ったのである。
時を持たず、死を知らない七の使い――彼らは、《賢き者》と呼ばれている。
《賢き者》達は《世界》の中心、《約束の地》に永遠の灯火を掲げ、そこで歌を紡いだ。
その旋律は、風に乗って世界へと響き渡った。
悲しみの旋律は雨となり、幸福の旋律は花を咲かせた。
そうして、幾星霜もの時が流れた。獣が生まれ、人が生まれ、世界の時は動き始めたのである。

神話の中で歌われている、十三の神――フェーラ・シースは万物にして光の王。
始まりの三神――創造の神ルヌラスト、破壊の神ルイン・キルーサ。そして、大地母神フィリア・ラーラ。
希望の西風ユーライア・レーアと、大海に抱かれし獣リージャス。
銀の月の歌姫ルーティル・セレーネ。旅人の星の女神レーナ・ティーラ。
命を司り、時を動かすアムス。死を司り、時を止めるエルク。双子の転生神。
炎と鍛冶を司り、戦いを支配するとされている神ジャス・ディーン。
傷つき倒れた者達を癒やし、愛を与えるアイリス・ラーラ。

そして――愚かなる人の心が生み出すと言われる最後の神。《全てを無に帰す混沌》カオス。
絶対なる破滅への意思、混沌の名を冠する者が望むべき事は唯一つ。
それは即ち、無への帰還。光を生み出した混沌への帰還。

これは、古より繰り返される流れ。

その《世界》の名は、フィルタリアという。



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