「紅い目をした黒いうさぎさんと、遊ぶ夢を見たんだよ」 もしも朝、目覚めたときに小さな黒いうさぎの姿を覚えていたら。 それは、あなたが夢の中で本当に、そのうさぎに出逢ったからかもしれません。 03.星の双子 ―The Little Dreamers.―
あなたは、知っていますか? 薄紅の髪に紅い目の、双子のうさぎのお話を。 お月様の欠片を閉じ込めたランプを手に、夢から夢へと渡り歩く双子の 姉の名前は、アンリエット。 妹の名前は、マリアベル。 ふたりの仕事は、ひとびとが見るさまざまな夢の欠片を拾い集めて、色とりどりの星をつくることです。 ふたりとも、まだまだ一人前には程遠い見習いの身。 泣き虫でこわがりなアンリエットは、夢の主がこわい夢やかなしい夢を見ないようにと、そればかりを拾ってきてしまいます。しかも、ときにはその夢の欠片を星にせずに、お月様の裏側にこっそり隠してしまうことも。 遊びたがりで元気いっぱいのマリアベルは、ついつい夢を拾うのも忘れて朝まで遊んでしまいます。 遊ぶ時間が早く過ぎてしまうのが惜しくて、夢の主に寝坊をさせてしまったことも、一度や二度ではありません。 同じ星から生まれた他のなかまたちは、すでに一人前としてきちんと仕事をこなしているのに、このふたりだけが、いつまでたってもちゃんとした星をつくれないままでした。 ふたりのつくる星は、空に浮かべても浮かばずに、すぐに流れ落ちて砂のように消えてしまうものでした。 ふたりは、なかまたちからおちこぼれのアンリとマリアと呼ばれていました。 いくら叱っても教えても聞かないので、教育係のマグリットは、とうとうかみさまに相談をしました。 かみさまは、ふたりを自分のもとへ呼びつけて、おこるかわりにふたりに問いかけました。 「アンリエット。どうしてかなしい夢ばかりを拾って、お月様の裏側に隠してしまうんだい」 アンリエットは答えました。 「こわい夢やかなしい夢を、見てほしくないからです」 「マリアベル。どうして遊んでばかりで、夢を拾ってくるのを忘れてしまうんだい」 マリアベルは答えました。 「たのしいことはそのひとの中に、ずっと残っていてほしいからです」 ふたりの答えを聞いて、かみさまは少し考えてから、言いました。 「かなしい夢は星になって輝くことで、やさしくてきれいな夢になるんだよ」と。 「たのしい夢は星になって輝くことで、もっとたくさんのひとびとをたのしませる夢になるんだよ」と。 ふたりは、夢の欠片を集めて星をつくることの意味を、そのとき、はじめて知ったのです。 それから、ふたりは、ちゃんとさまざまな夢の欠片を集めてくるようになりました。 集めた夢の欠片を使って、色とりどりの星をつくることができるようになりました。 ふたりのつくる星は流れ落ちてしまったりせずに、ちゃんと空に浮かぶようになりました。 ふたりのつくるたくさんの星は、皆がつくる星よりもずっと、きらきらとやさしく輝いています。 それは、ふたりが、夢の欠片がなによりもきれいなものになると、知っているからです。 一人前になったふたりのことを、誰もおちこぼれとは呼ばなくなりました。 ふたりは、今日もお月様と一緒にひとびとの夢を渡り歩いています。 ……一人前になっても、ときどき夢の中で遊んできてしまうことがありますが、かみさまもマグリットも、目をつむっているようです。 Fin.
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