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第 四 章  黄 昏 を 継 ぐ 者


1

 父にまつわるもっとも印象的な記憶は、手だ。頭をなでてくれた大きな手。そして、紅い炎を自在に操った大きな手――
 わずかな言葉によって現れた炎は、彼の手の動きに従い、自在にその姿や大きさを変えた。翼を持った女神が竜へと姿を変え、そこから木が芽生えて花が散る。
 紅い炎が作り出した小さな世界は、芸術と言い換えても何ら差し支えはなかっただろう。
「一時の怒りに囚われず、常に己の内心を見定めなさい。フィレア――きみの中に眠る力は、他者を傷つけるものであると同時に、他者を護り得る力にもなる――きみが己の力をどう扱うのか、それはすべて、きみの意思に委ねられている」
 記憶の淵に繋ぎ止めてきた言葉が、脳裏によみがえる。
 魔力は万人に与えられているが、魔術は決してそうではない。
 限られた者のみが扱える、破壊と守護を併せ持つ力。その力の矛先は、扱う者のみが制することができる――
 けれども、魔術の力は本質的には『破壊』そのものであることは、魔術を扱う以上認めざるをえない事実だ。
 他者を護る、その大義名分のために、別の何かを破壊するための力なのだから。
 それは魔術を扱う者ならば誰もがわかりきっていなければならないことで、そんな自己矛盾を今更悔いたところでどうにかなるものではない。フィレアも自身を護るために、父が教えてくれた魔術を用いて他者を傷つけてきた過去があり、そしてそれは、これから先も変わらないだろう。
 それでも、時折思う。
 父は、自分に魔術師になって欲しくはなかったのだろうか。
 その問いを発したところで、おそらく答えは得られないだろうとわかっていても。



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